フェイドイン

クレジット

クレジットが、非現実的なほど美しい場面にスーパーインポーズされる。
太陽の光を遮断している深い森。しかしそこにあるのは静謐さだけではない。
銃声が響き渡り……わたしたちはドイツ軍の斥候部隊と赤軍兵士の一団が
戦闘中であることを知る。死にもの狂いの闘い……転がっている数人の遺体。
何人かの顔が見える。誰であるかは、物語が進むにつれて明らかになる。
クレジットが終わるときも、銃撃戦は続いている。そして……

1. 丘の斜面 昼

カメラは丘をゆっくりと登るように映し出す。
丘の緑、咲き乱れているヒナギクやタンポポで季節が晩春であることがわかる。
丘の頂が見えてくる。
雲間に青空がのぞいている。牧歌的で平和な雰囲気。

カメラが丘の頂上に辿り着く……続いて、突然、ピカピカに磨き上げた
ブーツがスクリーンいっぱいに映し出される。カメラは突然、静止する。
それからカメラはゆっくりと、ブーツから、ていねいに仕立てられた
ドイツ軍将校の制服に、そしてその将校の顔へとパンしてゆく。
ストランスキー大尉だ。顔は長く、額は広く、瞳はライトブルー。
極度に力強い印象を与える顔で、その印象は薄い唇と角張った顎によって
強調されている。髪はこめかみのあたりが白くなり、対照的に顔は健康的に
日焼けしている。

この時、ストランスキー大尉は、双眼鏡をのぞいている。冷酷な表情だ。
後ろにはマイヤー中尉が立っている。若く、善良そうな顔立ち。
しかし、マイヤーがストランスキーに好意を持っていないのは表情から明らかだ。
細く長い指で双眼鏡のつまみを調整する大尉は口元を引き締めている。
ストランスキー大尉は背筋を伸ばし、マイヤー中尉に振り向く。
中尉の顔はさっと無表情になる。ストランスキーの全身からは怒りが
にじみ出ているが、何も言わず、向き直り再び双眼鏡をのぞく。

2. 双眼鏡からの光景 ストランスキー大尉が見ている映像

途切れ途切れの森林、約1平方マイルの地域。

3. ミドルショット ストランスキーとマイヤー

ストランスキー、真っ直ぐ立つ。

  ストランスキー
  (怒ったように)
  信じられん……愚の骨頂だ。
  あの森は切り倒すか焼き払っておくべきじゃないか。

  マイヤー
  申し訳ありません、しかし大急ぎで後退しなければ
  ならなかったので、そのような閑はまったくなかったのです。

  ストランスキー
  そうは思わんね。取り返しのつかない手落ちだぞ。
  連隊にこの影響に関する報告を送るからな。
  (森を見て、シガレットケースに手を伸ばす)
  ロシア兵はもう森に侵入していると思うかね?
  (マイヤーにタバコをすすめる)

  マイヤー
  ありがとうございます。すぐに判りますよ。
  シュタイナー伍長が斥候に出ていますから。
  ストランスキー、吸い差しを落とし、踏み消す。

  ストランスキー
  斥候は戻ってこないこともあるぞ。

  マイヤー
  シュタイナーは戻ってきます。

  ストランスキー
  (怒った様子で)
  君の意見は聞いていないぞ、マイヤー君。

マイヤー、口を閉ざす。差し出がましい口を利いたことを後悔する表情。
不安感と好奇心がないまぜになり、何が起るかを事態を静観している。

アングルが広がり、兵卒が映し出される。兵卒は大尉に歩み寄り、敬礼。

  兵卒
  ストランスキー大尉でしょうか。
  ブラント大佐が司令部でお待ちしております。

ストランスキーはうなずき、マイヤーに鋭い視線を浴びせ、立ち去る。
カメラ、大尉を追う。周囲では兵士たちが作業に忙殺されている。
塹壕を掘り、陣地を築く。怒鳴り声が響き渡る。
ストランスキーが通り過ぎると、兵士たちが敬礼する。
大尉、ほんの微かに肯いてそれに応える。

4. 連隊掩蔽壕、外

警備兵が1人、歩哨に立っている。
ストランスキーが映像に入ると警備兵、洗練された仕種で敬礼。
大尉、警備兵に目をやらずに敬礼を返し、掩蔽壕に入る。

5. 掩蔽壕、内部

2人の将校が壁にかかった地図を見ながら話し合っている。
年長の将校はブラント大佐。年齢は52歳、やつれて陰鬱な顔。
若い将校は大尉。30代中頃、表情に疲れがにじみ出ているが、
知的な顔をしている。この時、大尉は首を振っている。

  大尉
  我軍の抵抗の主線がノヴォロシースクなら、
  我々は一体ここでなにをやっているんでしょうな。

  ブラント
  (肩を竦めて)
  消防士ごっこをやっているのさ。

  大尉
  戦火の中心から数百キロも離れてですか?
  なんの意味があるんです?

ドアが開き、伍長が報告をする。

  伍長
  ストランスキー大尉です。

ストランスキー、入り口に姿を現す。

  ブラント
  入りたまえ、大尉。
  わたしの副官とは顔見知りだったな。

  ストランスキー
  もちろんです。調子はどうです、キーゼル大尉?

  キーゼル
  最低。ひどいもんだ。あんたはどうです?

ブラント、テーブルにワインのビンを置く。

  ブラント
  これを飲めば元気が出るかもしれんぞ、キーゼル。

ストランスキー、ワインのラベルに目を凝らす

  ストランスキー
  素晴らしいですな、ブラント大佐。
  ロシアの最南端で1937年製のモーゼルをお持ちとは。

  ブラント
  (グラスを満たす)
  この地域にモーゼルワインがあることも馬鹿げているが、
  我々がいることの方がよっぽど馬鹿げてるのさ。
  では、君たちの健康に。

  キーゼル
  自分の健康のために乾杯する気にはなれませんな。
  ひどすぎてそんな価値はありゃしません。
  (グラスを上げ)
  くだらねぇ戦争の終結に。

  ストランスキー
  ちなみに、大佐。
  橋頭堡に我々が存在していることの、どこがそんなに
  ばかばかしく思われるのでしょう?

ブラント、キーゼルに目をやり、そしてストランスキーの方を向く。

  ブラント
  (質問を無視し)
  大尉、なぜフランスからの移動を申請したのかね?

  ストランスキー
  (笑いながら)
  フランスにいたときの上官とまったく同じ質問ですな。
  こう言われましたよ。
  止めることはできんな、君がいなけりゃ、東部戦線は数日中に
  崩壊してしまうんだろうよ。
  行けばいいさ、英雄気取りの間抜けめ、とね。

  キーゼル
  (すかさず)
  戦争の終わりに乾杯するのはやめたよ。
  どこにでもいる英雄気取りの間抜けに。

ストランスキー、キーゼルの意図を計りかねている。
しかし氷のような微笑を浮かべる。

  ブラント
  ストランスキー、シュタイナーに関しては何か聞いたかね?

  ストランスキー
  いえ、まだ何も。

ブラント、首を振る

  ストランスキー
  時に、その男、シュタイナーというのは何者ですか?

キーゼル、ストランスキーをじっと見詰める。

  キーゼル
  問題児だな……上官に対する敬意は持ち合わせておらんが、
  一流の兵士だよ。別の見方をする者もいるがね。

沈黙

  ストランスキー
  (短く笑い)
  まだ前線に来て2、3日、いや、実際には数時間ですが、
  確かに判ります……というより感じます。
  何と言うか……正確に言うと「反抗」ではないのですが、
  そう、「敬意の欠落」とでも言うべきものを。

  キーゼル
  ブレーキが故障しているタクシーに乗って、事故に遭ったら、
  わたしはタクシー会社を非難したりしないさ。
  運転手を責める。
  ブレーキが壊れたタクシーは運転したくないと拒べはいいんだから。

  ストランスキー
  何をおっしゃりたいのかよく判りませんな。

  キーゼル
  (一瞬、彼を見、そしてあっさりと)
  政治の話をするつもりはないね。

  ブラント
  (怒って)
  敬意の欠如、士気の低下……と言うが、
  それは差し迫った敗北を考えれば無理もないのだ。

  ストランスキー
  敗北ですと?その可能性すら認めることを拒否します。

  キーゼル
  (無感情に)
  我々は認めるよ、大尉。

  ストランスキー
  信じられませんな、ドイツ軍兵士が……

  キーゼル
  ドイツ軍兵士か!
  (陰気に笑い)
  最初の頃、作戦に参加していた連中は退却するロシア人の
  背中を見馴れているから、今こっちに攻めてきても、
  ビビリはしない。
  でも最近、配属された連中は大違いさ。
  ロシア人全員が完璧な戦闘マシンだと思っていやがる。
  まったく、わが兵卒には悲しくなるよ。

  ストランスキー
  (冷淡に)
  我国の現状を考えれば、そのような発言は反逆罪に
  問われかねませんぞ。
  わたしは兵士であり、国益に関する自分の考えに従うことが
  兵士としての自分の義務だと思いますな。

  キーゼル
  (グラスを上げながら、明るく笑って)
  今でも義務は遂行しているよ、ストランスキー大尉。

ストランスキー、青白い顔でキーゼルをにらむ。

電話が鳴っている。ブラント、カチャリと音をたて受話器をとる。

  ブラント
  それで?なに?そうか、マイヤー。それはいい。
  連中の様子はどうだ?……わかった。
  (電話を切る)
  マイヤー中尉だ。シュタイナーが戻ったぞ。

  キーゼル
  そう思ってましたよ。

  ストランスキー
  なんだか、その男と話してみたくなりましたな。
  その場で、上級軍曹に昇進させましょう。

  キーゼル
  (顔をしかめて)
  そりゃあ、心の広いことだ。

  ストランスキー
  (敬礼をして)
  これで失礼させていただきます。

ブラント、肯く。ストランスキー、立ち去る。一瞬の沈黙。

6. クローズショット - ブラントとキーゼル

  ブラント
  で、あの男をどう思うね、大尉。

  キーゼル
  (一瞬考えて)
  ベルリンで最高の仕立て屋を使っているのは間違いないですな。

  ブラント
  それに、当然のことだが、鉄十字賞を取るまで、
  あの調子が続くだろうね。

  キーゼル
  (乾杯して)
  取る、ですか……ふさわしい行為で授与されるのではなく?

ブラント、ワインボトルを手にするが、空であることに気づく。

  ブラント
  ああ、ストランスキーも鉄十字章もくそくらえだ。
  おまえもだ、キーゼル。

二人はお互いにニヤニヤ笑う

暗溶

7.マイヤー少尉

陣地の扉外で塹壕の中をゆっくりと行ったり来たりしている。
時折、兵士の一団をチラチラと見るが、彼らは塹壕の底でさまざまな姿勢で
だるそうに意気消沈している。

8.フルショット−兵士の一団

カメラは顔から顔へゆっくりとパン。一団は9名(後ほど各自が誰かわかる)。
現在、全員が疲労困憊、汚く、愛想をつかしているようである。2人の例外、
パスターナックとアンゼルムは同世代(だいたい25〜30歳)である。
パスターナックとアンゼルムは若い。シュヌルバートは豊かなあごひげで
区別がつく。クリューガーは風雪に−鍛えられた顔つきだ。
ドルンは知的な風貌。シュタイナーの、極端な頬こけは目を引く。
彼の顔には表情が無い。他の者、マーク、ホラーバッハ、ケルンは
これといった特徴が無く、平凡である。

マイヤーは無言で兵士達から歩き去る。兵士達はたいして彼に注意を払わない。
たばこの煙がいくつか陣地へ向かうのをマイヤーは見る。カメラはその視線を
追って、陣地へ動く。

9.陣地の中−トリービッヒ少尉

少尉がテーブルの席についている。彼はとても若く、すごくハンサムな将校である。
当番兵のケプラーはコーヒーポットのあるコンロであわただしい。
彼もまたとても若い。少しして−−

  トリービッヒ
  すごく熱いか? シュトランスキー大尉はホットコーヒーしか召し上がらんぞ。

  ケプラー
  やけどしそうであります。

  トリービッヒ
  よろしい。

  ケプラー
  他にご希望はありますでしょうか?

  トリービッヒ
  今は無い。

ケプラーが退出しはじめる:

  トリービッヒ
  待て。しばらく話ができるだろう。ほとんどお前のことを知らないんだ。そこらに座れ。

ケプラーはちらりと見わたす。トリービッヒは一つしかないイスに座っている。

  トリービッヒ
  ベッドに腰掛けろ。いつもそんなにおどおどしているのか?

  ケプラー
  (ひきつった笑みで)
  いいえ。

ケプラーは狭いベッドの一番端っこにちょこんと座る。トリービッヒは彼を観察する。
ケプラーのくせになってる表情は絶望のものであり、それはいつも口をうっすらと開けて
いることで強調されている。

  トリービッヒ
  出身はどこだ?

  ケプラー
  フランクフルトであります。

  トリービッヒ
  そうなのか? フランクフルトはとても良く知っている。
  (寝台に座りケプラーの横へ)
  私とうまくやれば、ここでいい暮らしが出来るぞ。下がってよろしい。
  今夜、陣地へ来て私の備品を整頓するように

  ケプラー
  (足元に必死に跳びはねながら)
  はっ。いつ参りましたらよろしいのでありましょうか?

  トリービッヒ
  あまり早くは来るな。10時ぐらいだ。語りあえるだろう。
  一所懸命やれば、私は満足することは間違いない。

ケプラーは敬礼し退出する。

10.陣地の外

トリービッヒが出てくる。兵士達は、ケプラーが歩き去るのを見ている。