68. クローズショット − シュタイナー

彼はもう、立っていられる浜のぎりぎりまで近づいている。
思わず1、2歩踏み出してこけてしまい、顔が水に浸かる。
起き上がろうとせず−−水中へますます深く沈むがままにしている。
突然、ゲートルドの手が画面に入ってきて、シュタイナーの両足をつかみ、
引っ張りあげる。

69.ミドルショット − ゲートルドとシュタイナー

ゼイゼイと息をして、シュタイナーは地面に横たわる。

背中を反し、彼女を見る。シュタイナーの顔には怒りと恥がある。
血が再び顔に流れ出す。座ろうとするのを、彼女が助けようとするが、
彼は腕をつき返す。

  シュタイナー
  おれに構うな。ぶつぞ。

彼は立ち上がって寄せ波に打たれるように数歩踏み出すと、
かがんで手のひらに水をすくい上げ顔の血を洗う。

そして向き直ると、ゲートルドが浜から数歩後ろへ下がって自分を
見張って立っている。風が彼女のスカートを股まで吹き上げている。

シュタイナーがほんの一瞬見ると(カメラがトラッキング)彼女の
横へ進む。ゲートルドはじっとシュタイナーを見ている。
突然、彼女を見つめるシュタイナー。彼女は無言で抵抗する。
シュタイナーは彼女を地面に押し倒す。
一瞬の動きで片方の肩からブラウスを引きはがす。

70. クローズショット − ゲートルドとシュタイナー

彼女は抗らうのを止めた。男の顔が女の顔に近づく。
抵抗する表情はないが、受け入れたわけでもない。意志で戦うがごとく、
じっと相手の目を見つめる女。シュタイナーは手荒に女の肩をつかむ。
だが突然、放して立ち上がる。ゆっくりと起座して服を整える彼女を見る。
話もせずに見つめている。そして−−

  シュタイナー
  (低い声で)
  何故ついてきた?

彼女は答えない。男は頭をわずかに振る。

  シュタイナー
  ゲートルド看護婦さんよ。人道主義で酔っ払いを引っ掻き回すな。
  誤解されるぞ。

  ゲートルド
  (深呼吸して)
  あなたは正気じゃないわ。

  シュタイナー
  (ハハハと笑う)
  おれたちゃみんな気が狂ってるさ。
  (からかって小さなお辞儀をする)
  ごきげんよう。

彼は庭の暗闇へ向かって歩いていく。ゲートルドは向き直り、
見えなくなるまで彼を見ている。

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71. ホール − 静養所 − シュタイナー

は寝室のドアに着いたばかり。中へ入ろうとしたとき、立ち止まり、躊躇する。
そしてゆっくりと隣のドアに歩いていき、前かがみになって、聞き耳を立てる。
ホールの上下に目をこらし、ゆっくりとドアのノブを開ける。

72. 暗い寝室の中

カーテンが吹き上げられた隙間を通して一条の光が差し込んでいる。
シュタイナーが中へ入ると、ベッドに起座しているインゲの姿が見える。

  インゲ
  そこにいるのは誰?

  シュタイナー
  (後ろ手にドアを閉めながら)
  三つで当ててごらん。

インゲは、長いナイトガウンを足首までたれさげて、闇の中をシュタイナーに
近づいていく。

  インゲ
  すぐに部屋から出てって。

  シュタイナー
  容姿に似合わず、えらくはっきりと言う。心配いらない。
  アスピリンを持っていないか尋ねたかっただけだ。

インゲは二歩近寄り、彼を見る。そして躊躇する。ドアの方へ向きを変えると、
シュタイナーに肩を掴まれて堅く抱きしめられる。

  シュタイナー
  明かりで向きを変えようとしたな?

  インゲ
  ええ。

  シュタイナー
  (彼女の腕を手探りで沿う)
  明かりは要らない、おれの言葉について来い。

もがく振りをしながら、ナイトガウンから右肩をはだけさせ、シュタイナーに
制止されることなく動く。

  インゲ
  放して。大声を出すわよ。叫ぶから。

  シュタイナー
  もちろん、大声を出すだろうさ。

彼女は両腕で男の肩をきつく抱きしめる。キスをしようとすると、
男は顔をそむける。男は女を抱きかかえベッドの方へ運んでいく。

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73. ロングショット − 日の出

が窓の中にフレームイン。カメラが引いて、インゲの寝室のインテリアへ。
インゲがベッドで横になっている。シュタイナーはベッドの端で、インゲに
背を向けて座り、窓の外を見ている。

  シュタイナー
  おかしいもんだな−−おまえは日没の景色を自慢したが、
  おれは日の出が好きだ。

インゲが笑う。起座して、男の胸に両腕で抱きつく。

  インゲ
  昨夜は、ただの一度も名前を呼んでくれなかった。
  (男の胸をさすりながら)
  私の名前は嫌い?

  シュタイナー
  何で嫌いということになるんだ?

  シュタイナー
  たった今までインゲという娘にあったことはない。
  少なくともベッドのなかではな。

インゲが笑う。立ち上がろうとしたシュタイナーを、強く抱きしめる。

  インゲ
  どこへいくつもり?

シュタイナーは振りほどいて靴がころがっているところへ歩き、拾い上げる。
インゲは、毛布をあごまですくいあげ、彼を見ている。シュタイナーが振りかえる。

  シュタイナー
  おやすみ。

  インゲ
  (怒った様に)
  キスもしないの?

身をかがめて軽く肩にキスをする。

  インゲ
  それで終わり?

  シュタイナー
  不足か? 金を支払ってほしいのか?

彼女は、後ろの枕が熱いアイロンになったかのように飛び起きる。
そして顔をベッドに押しつけて、取り乱してすすり泣き始める。
シュタイナーは少しの間立って困惑と後悔しながら彼女を見ている。

  シュタイナー
  (悲しげに)
  悪く思わんでくれ、言葉足らずだった。

ゆっくりとドアへ歩いていき、後ろ手に閉めた。

74. 削除

75. ミドルショット − ゲートルド

が、ちょうど入ってきてバーである男と話をしようとする。

76. ミドルショット − シュタイナー

席に背を深くもたれて、ゲートルドを離れて見ている。
そして起き上がり(カメラがトラッキング)、フロアを縫って彼女のところへ。
彼女の背中が彼に向いている。

  シュタイナー
  (静かに)
  ゲートルド−−

彼女が振り向いて見ると顔に血がのぼるが、一言も言わない。

  シュタイナー
  これが最初の出会いだったら−−

  ゲートルド
  (彼を見る)
  あなたなりの精一杯の謝罪と受取っていいのでしょうけど−−
  弁解なら……

彼が制止するしぐさをしたが、おさまらない。
クラウスの声が聞こえる。

  クラウスの声
  ロルフ−−

シュタイナーがクラウスに顔を向ける。

  クラウス
  ここにいるぞ−−!

  シュタイナー
  (夢中で)
  誰が?

  クラウス
  知ってるだろう−−イルゼさ−−鉄十字章もののおっぱいだ−−

  シュタイナー
  要らん−−

無意識に振り返ってバーの隅へ目をやる。看護婦の白い制服の少女が
目に入ると、シュタイナーはしゃべるのを止める;目を細める。

77. クローズショット − イルゼ

が、希望に満ちた微笑を浮かべて、シュタイナーを見ている。
豊満な体つきは、はきだめに鶴である

78. ミドルショット シュタイナーとクラウス

シュタイナーの顔に表情はない。カメラでトラッキングしつつ、
彼は給仕しているイルゼへ進む。途中で通り過ぎたゲートルドは
シュタイナーの表情の険しさにおののきながらイルゼに突き進む
彼から目を離さない。

79. ミドルショット − イルゼ

の笑顔は、シュタイナーが画面に入ってくると凍りつく。

  シュタイナー
  (落ち着いて)
  こんばんわ、イルゼ。
  彼女は相手をじっと見るしかできない。

  シュタイナー
  とがめなどできない、イルゼ。
  つまり、あれは−−何ヶ月になる? とにかく1年以上だ。
  そう、13ヶ月だ。

  イルゼ
  (すごく低い声で)
  ロルフ−−

  シュタイナー
  −−そして、平均の法則−−何の権利で生きねばならない?
  それを教えてくれたな、イルゼ?

突然、イルゼがすすり泣き出しはじめ、手で顔を覆い、向きを変えて
出口へ走っていく。クラウスは、数歩後ろに立っていたが、
シュタイナーに近づいていく。

  クラウス
  あんたにゃ女に妙な影響力があるっていうしかないな。

シュタイナーは答えない。クラウスは首を振り、イルゼの後を追う。

80. ミドルショット − ゲートルド

の目は、シュタイナーからそらしてはいない。無人の席につく彼を見つめる。
内ポケットから1枚の紙を取り出している。通り過ぎる給仕係に合図をしている。
短いやりとりの後、給仕係がシュタイナーに鉛筆を貸す。シュタイナーが
筆記しはじめると、ゲートルドはゆっくりと彼の方へ移動する。

81. ミドルショット − テーブルで筆記するシュタイナー

は、ゲートルドの影がテーブルに落ちると、少し見上げてまた筆記に戻る。
無言でゲートルドは、シュタイナーの対面にすばやく着席する。
そのすぐ後に筆記を終えてゲートルドを見る。

  シュタイナー
  いったい何事かと知りたがってるようだな。

  ゲートルド
  いいえ。

  シュタイナー
  うそを言いなさんな。

  ゲートルド
  そうよ、全くそのとおり。

シュタイナー
とんでもない話だ−−そいつを話すのは騎士道にもとる。
だがな、戦争で最初の犠牲の一人は騎士だったのさ−−(紙片を見る)
一年ほど前、病院にいた。四年の戦争で四回入院した(ははは)。
いつかどやしつけるときがあるに違いない。
とにかく、−−イルゼ−−ミス・バウマン−−は、おれにとって一人の
看護婦以上になろうと決心した。三日と三夜が過ぎて、俺は、まわりの
人に単なる看護婦じゃない人だと話したのさ(ゲートルドの顔を見る)。

しばらく黙り、その顔に屈辱が映る。

  シュタイナー
  彼女はなんとか進もうとした。その結果、軍法会議に、減刑されて
  懲罰大隊六ヵ月となってもな。(間。紙を持ち上げる)そして今おれは
  ミス・バウマンに自白書へ署名させようとしている−−

  ゲートルド
  お願い−−彼女に無茶苦茶しないで−−

シュタイナーが立つ。
ゲートルドは無言のアピールで彼を見る。シュタイナーは頭を横に振り、
出て行こうとする。それをゲートルドは見送る。

82. ミドルショット−浜のベンチ−水辺に面している

ベンチの端で、イルゼは背を丸め、まだすすり泣いている。
背景に人影がぼんやりと映る。すると、人影の手から、閃光が放たれる。
その光線が照らし出すイルゼは、動かない。懐中電灯を持っている人物が
近づいてきて、それがシュタイナーとわかる。
シュタイナーはイルゼの横に立っているが、彼女は見上げない。

  イルゼ
  消して−−見えないわ。

シュタイナーは懐中電灯を消す。彼を見上げるイルゼの顔には怒りの視線がある。

  イルゼ
  このろくでなしの酔っ払い。

  シュタイナー
  (にやりと)
  それは俺のことかな?

  イルゼ
  (荒々しく)
  そうよ。いつだってろくでなし。
  女の扱い方なんてこれっぽっちも知らないんだから。

  シュタイナー
  お前はどうだ。それから今度は自分の潔白を証明してみせろ−−
  (紙片を取り出す)
  −−これにサインしろ。

  イルゼ
  なにこれ?

  シュタイナー
  お前の自白書さ。

  イルゼ
  自白。何を自白しなければいけないの?

  シュタイナー
  あー、ゲームをしているのか?
  わかった。読んであげよう−−
  (明かりをつけて、読み始める)
  1943年5月12日夜、ロストフ第二基地病院付看護婦イルゼ・バウマンは、
  切除手術を受けたカール・ワッチェル伍長の部屋から腕時計一個を盗み、
  またさらに、その時計を、ロルフ・シュタイナーの所持品の中に隠した。

急にイルゼは飛び起き、シュタイナーの手から懐中電灯をはたいて、走り始める。
しかしシュタイナーは二歩で捕まえる。彼女は蹴ったりゲンコツでなぐったりする。
シュタイナーは彼女を水辺へ引きづっていき、ひざの深さまで踏み入って、
頭を水の中へ押し込む。

83. ミドルショット − シュタイナー

が、イルゼの頭を水の中で押さえている。それから髪を引っ張って彼女を上げる。

  シュタイナー
  さあサインするか?

彼女はゴホゴホと息をするのに必死である。シュタイナーは腕で彼女を抱き抱え、
ベンチのところへ戻り、その上に遠慮なく放り出す。
鉛筆と紙と懐中電灯を拾い上げる。彼女の顔に明かりを照らす。
その髪から水が額と手にしたたり落ちる。

  シュタイナー
  ベッドの中ならたぶん泣き叫べるんだろうが、ここでは違うぞ。

鉛筆を彼女の手に押しつける。ベンチの電灯を点灯させてイルゼが見えるようにする。
彼女は震える手で紙にサインする。シュタイナーは懐中電灯のスイッチを切る。

  シュタイナー
  (紙を見ながら)
  よかろう−−もう行っていい。

イルゼは動かない。

  シュタイナー
  (鋭く繰り返す)
  下ってよし!

イルゼは動揺して、立ち上がり、彼を見る。

  イルゼ
  (単調に)
  訴えるつもりなのね。

にやりとうなづく。

  イルゼ
  ああ、神様。どうしたらいいの?

シュタイナーは肩をすぼめる。ゆっくりとイルゼは歩いていくが、
濡れたスカートは脚にくっつき、頭をうなだれ、肩をひきつらせている。